【事例解説#2】ニュージーランドが観光客を呼び戻すことに成功した話(ニュージーランド、2020年)
競争が激化する市場で、いかに自社を際立たせるか?
これは、多くの選択肢で溢れる今の世の中において、どのブランドも直面する非常に大きな問題です。
2019年のニュージーランド観光局も、まさにこの問題を抱えていました。美しい自然を前面に押し出し、20年以上も世界中の観光客を惹きつけてきた「100% Pure New Zealand」のキャンペーンが、機能しなくなっていたのです。
イシュー:圧倒的に不利な状況で、いかに他国のキャンペーンと差別化するか
原因は、他の国が次々と「100% Pure New Zealand」を模倣したキャンペーンを行ったことにありました。「混じり気のない(=100% Pure)、美しい自然を堪能するならニュージーランド」というメッセージの独自性が、失われてしまったのです。
さらに、他の観光地に比べて少ないマーケティング予算や、欧米諸国から見たときに「世界の果て」にあるというアクセスの悪さも相まって、ニュージーランドの観光客数は徐々に低迷。
かつて輝きを放った、「100% Pure New Zealand」というスローガンの魅力は2019年時点ではすっかり失われ、ニュージーランド観光局は、他国とは異なる新たなアプローチで観光客を呼び戻す必要に迫られていたのです。
インサイト:観光客が魅せられていたのは、景観ではなくニュージーランド人の人柄だった
この状況を打開すべく、ニュージーランド観光局は同国への観光客を徹底的に調査。その結果、意外な発見をしたのです。
それは、
人々は美しい景観に惹かれてニュージーランドを訪れる一方で、帰国するときにはニュージーランドの「人々」に魅せられていた
という事実でした。
ニュージーランドの人々は、「マナアキタンガ(Manaakitanga)」というマオリの伝統的な価値観 ― 無条件の尊敬と寛容さ ― を大事しており、彼らの優しさとおもてなしの心こそが、観光客を魅了していたのです。
たとえば、ホストファミリーが惜しげもなく自分の車や家の鍵を貸してくれたり、観光ガイドには載っていないような秘境を自ら進んで案内してくれたりと、そのホスピタリティは他の観光地では得難い、特別なものでした。
人々のおもてなしの心を前面に押し出した新たな戦略
この洞察をもとに、ニュージーランド観光局は「100% Pure New Zealand」というスローガンを、「100% Pure New Zealand Welcome」に変更。雄大で美しい自然ではなく、そこに住む人々のホスピタリティを提供価値に据える、という戦略の転換でした。
また、予算で他国に劣るニュージーランド観光局は、この新たなメッセージを効果的に伝えるために、ニュージーランドの人々を題材にして、SNSでの動画キャンペーンを行うことを決断。これにより、コストを抑えながら、「ニュージーランド人のおもてなし」のリアルを世界に発信し、ニュージーランドの真の魅力を伝えようとしたのです。
こうした生まれたのが、「Good Morning World」キャンペーンでした。このキャンペーンでは、1年間、毎朝、現地の人々が1人ひとり交代で世界に向けて「おはよう」と挨拶。そして、自分のお気に入りの場所を彼らの嘘偽りのない生の声で紹介する、というものでした。
これは、ニュージーランドの最大の観光資産である「人」を前面に押し出すだけでなく、「世界の果て」という弱点を「世界で一番最初に朝を迎える場所(=世界で一番最初におもてなしができる場所)」とポジティブに捉え直すことで払拭する、という非常に考え抜かれたアプローチでもありました。
ROI 916%を達成
「Good Morning World」キャンペーンは、期待以上の成果を収めました。
- 「ニュージーランド」の検索数が1,590%増加
- 広告想起率が26%向上し、認知度83%を達成
- 前年比5%の予約増加、ROIは916%を記録
- パンデミック下にも関わらず、主要市場であるオーストラリア、アメリカ、イギリスの旅行者から高い訪問意欲を獲得
予算が少なく、辺境の地にある、といった彼らが抱えていた不利な条件を考えると、この結果はかなり上出来と言えるのではないでしょうか。
この戦略から何が学べるのか?
さて、わたしたちがこの事例から学べることは何でしょうか?
もしあなたが自社の差別化に悩んでいるなら、次の3つのアプローチは試してみる価値があるでしょう。
1. 隠れた強みを発掘する
ニュージーランド観光局は、美しい自然ではなく、人々のおもてなしこそが他国にはない最大の強みである、という想定外の事実に基づき、大胆に戦略を転換、成功しました。
あなたのブランドにも、もしかしたらまだ気づいていない独自の強みがあるかもしれません。過去の成功体験に囚われず、顧客の視点に立って、そうした隠れた強みを発掘し、新たな差別化要素として打ち出していきましょう。
2.一貫性を保ちながら強みを進化させる
ニュージーランド観光局は戦略の転換にあたり、「100% Pure New Zealand」という象徴的なスローガンを重要な資産としてうまく活用しました。これにより、ブランドとしての一貫性を保ちながら、「人々が最大の強み」という洞察を新しいメッセージに組み込むことができ、結果、他国との差別化に成功しました。
あなたのブランドにも、アイデンティティと言えるような大事な資産があるはずである。それを無闇に捨て去るのではなく、今の競争環境や新たなインサイトに基づき、どうアップデートできるのか、考えてみることをお薦めします。
3.弱点を強みに転換する
「世界の果てにある」というニュージーランドの地理的な弱点は、発想の転換によって、むしろ「世界で最初に新しい一日を迎え、世界で最初におもてなしができる国」という強みに変わりました。
あなたのブランドも、もしかしたら弱点が独自の強みになるかもしれません。すべての物事は捉え方次第です。強みだと思っていたものも、別の視点から見れば弱みになりますし、その逆もまた然りです。また、弱みはえてして、そのブランド”ならでは”の特徴であることも多いです。
まずは、弱みをポジティブに表現してみるところから始めてみて、新しい戦略やキャンペーンのアイデアに活かせないか、考えてみましょう。
90日間アクションプラン
では、仮にあなたがニュージーランド観光局の教訓を実際に行動に移すとしたら、何をすべきでしょうか。
以下の90日間のアクションプランを参考に、ニュージーランド観光局のように、不利な状況でも物事を好転できないか、考えてみましょう。
1〜30日目:ブランドの隠れた強みを特定する
- 顧客インタビューを行い、これまで自分たちは認識していなかったが、実は密かに顧客から支持されている要素がないか、探ってみましょう。
- 複数の顧客に共通して刺さっている要素をあぶり出し、何が彼らを魅了しているのか、言語化してみましょう。
- 大事なのは、無理やり強みを作り出さないことです。元から存在するが、自分たちが見逃していた価値を見つけるのがポイントです。
31〜60日目:隠れた強みを軸にしたキャンペーンを企画する
- 発見した隠れた強みを魅力的に伝える、クリエイティブなアイデアをたくさん出し、何が顧客の心の琴線に触れるのかを検証し、効果的なものに絞り込んでいきましょう。
- インタビューを通じて得られた、顧客の実体験や彼らの声を取り入れることで、メッセージの信頼性と共感性を高めることができます。
- 重要なのは、これまでブランドが発信してきたメッセージと、何らかの一貫性を担保することです。すべてをリセットするのではなく、使える資産は使い、それを発展・進化させるキャンペーンにしていく姿勢が大事です。
61〜90日目:キャンペーンを展開し、エンゲージメントを強化する
- 予算やターゲットのメディア選好に応じて、彼らに確実にアプローチするための具体的な施策を検討しましょう。
- たとえば、ユーザー生成コンテンツを促すような仕掛けを考え、顧客の共感を軸に、彼らのあなたのブランドへの関与度とエンゲージメントを高める施策を展開していきましょう。
- ポイントは、顧客のリアルな声・反応を拾い上げ、柔軟にキャンペーンに組み込んでいくことで、ブランドの新たな強みへの信頼感を高めることです。
さいごに
いかがでしたでしょうか?
圧倒的な不利な状況でも、何に焦点を当てて、どう状況を捉え直すか、によって、同質的な競争から抜け出す糸口が見つかる ー そんなことを教えてくれる事例だったのではないでしょうか。
Penguin Tokyoは、このような世界のマーケティング事例を日夜研究。そこで得られた戦略策定の教訓を踏まえ、日本のブランドが世界で戦い勝っていくための戦略づくりを支援しています。
もしご担当のブランドの成長戦略が描けていないというお悩みをお持ちでしたら、お気軽にDMやPenguin TokyoのWebサイトからご連絡ください。
それではまた次回の事例解説をお楽しみに!
関根
出典:
- ‣
- ‣
- ‣
- ‣
- ‣